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税理士 / 中小企業診断士 / イノベーション・コーディネーターとして働く中で田中慎が考えたこと・感じたこと税理士 / 中小企業診断士 / イノベーション・コーディネーターとして働く中で田中慎が考えたこと・感じたこと

2022.03.29

友だちから見た田中会計

税理士さんと二人三脚で走れる関係性は、経営者にとってすごい強みになります。|vol.02後編

左から、田中、熊倉、山本さん、柴田さんです

[ 前編 〜株式会社おいかぜ デザイナー 山本 容子さん〜 を読む ]

「基本的に全部共感してしまうから対談にならへんな」

田中慎さんがそうつぶやくと、株式会社おいかぜの代表取締役 柴田 一哉さんも「そうですね」と苦笑い。デザイナー山本 容子さんとの再会を喜んだ後は、これまでも一緒にトークイベントやワークショップを開催してきた柴田さんとの時間です。会社の広報について、税理士と企業の関係性について、経営者同士のリアルなお話が飛び交いました。

単に仕事を増やすだけじゃなく、いい仕事を創り出したい。

田中:こんな風にお話しするのは久しぶりですよね。以前この部屋で、働き方に関するトークイベントをした時以来ですかね。なぜかおじさん3人でサンタの帽子をかぶって喋ったやつ。

柴田:ありましたね、サンタ。懐かしいな。

田中:おいかぜさんは、広報担当を募集されていましたよね。うちも広報に力を入れようと思ってWebサイトで記事の発信を始めたところなので、色々お話を聞きたいと思ってました。ちなみに今社員さんは何人ですか?

柴田:今39人かな。この1年でまたけっこう増えましたね。そう、昨年末から初めて広報職で求人を出して、1人入社が決まりました。

田中:おめでとうございます!

柴田:広報といっても、最初は営業のチームを作ろうという話から始まったんですよ。2年前に初めて営業職を採用して、それまで僕が1人でやっていた営業を2人でするようになったんです。それがけっこう上手くいって。仕事を生み出すチームを強化していこうと考えた時に、営業をもう1人増やすよりも広報が必要なんじゃないかという話になりました。僕らみたいな制作会社って、営業スタッフと制作スタッフの間に溝ができてしまいがちなんです。それは絶対に避けたくて。単に仕事を増やして売上を伸ばすことじゃなくて、いいお客さんに巡り合うこと、いい仕事を創り出すことにフォーカスすべきだなと思いました。

田中:なるほど。

柴田:具体的に何を求めているかというと、社外の人間関係を広げて、届けるべきところにコンテンツを届けてくれること。コンテンツの中身は社内で作れるんですけど、その先が今までは弱くて。なので、イメージ的には営業に近いです。田中さんはなぜ広報の強化を考えるようになったんですか?

田中:うちも考え方は同じです。今までは僕が1人で動いてたんですけど、スタッフが2人増えたことで、彼女たちにいい仕事を渡さなあかんなと思いました。今まで通り営業したら仕事は来るだろうけど、ちゃんとうちの会社のことを理解してくれるお客さんに来てほしくて。そのために、webサイトで記事にして発信していこうと決めました。

柴田:経営者が1人でやってると、営業もけっこう途中でめんどくさくなって、やめちゃうことってないですか?でも、スタッフが担当についてくれると、ちゃんと粘り強く進めてくれる。営業の近藤さんが入ってくれてから、1人では絶対に決まってなかったなと思う仕事がけっこうあって。広報も一緒で、僕が気まぐれでSNSに投稿したり、新聞社の人に連絡してみたりしてるだけで、ちゃんとやり続けてないんです。

田中:めっちゃわかります。僕もnoteやSNSでまめに発信している方だとは思うんですけど、自分の言葉だけでは限界があるなと感じていて。違う角度から自分たちの価値観を掘り下げて伝えることで、見え方が変わるんじゃないかと期待しています。

うちの仕事に価値を感じてくれるお客さんを大事にしたい。

田中:おいかぜさんにとっての「いい仕事」ってどんな仕事ですか?

柴田:お客さんと目線を合わせられる、つまりリテラシーのすり合わせができることが大事ですね。目線がうまく合っていないと、「なんでこんなに高いんですか?」「なんでIEでは動かないんですか?」とか、色んな問題が起こるんですよ。僕たちの作るものや会社のあり方を認めてくれているお客さんは、すり合わせを積極的にしてくれます。その方が制作がスムーズに進むし、結果としてクオリティも上がります。

田中:複数候補の中の1社として選ばれるんじゃなくて、最初から指名で来てもらえるといいですよね。その方が僕たちも頑張れるし、お客さんとwin-winの関係性が築ける。そのために広報があると思っていて、うちがオンライン勉強会をするのも、クラウド会計freeeについて発信するのも、そういうことに関心がある人に来てほしいからです。……さっきから思ってたんですけど、ちゃんと対談記事になるんかな、これ。共感ばっかりで議論にならへん。

柴田:確かに(笑)。

田中:さっき営業の話がありましたけど、僕はけっこう、売上にならない仕事でもやりたいと思ったら進めてしまうんです。相手がうちの仕事に価値を感じてくれて、こっちも事業に可能性を感じたら、安い値段でも手伝っていて。最近、それってあんまり良くないのかもと思い始めました。僕1人で動いている間はよかったけど。

柴田:うちは会社の規模が大きくなって、そういうことができなくなってきましたね。でも、わりと最近まで「魂枠」がありましたよ。音楽系のwebサイトとか。僕も音楽が好きだし、スタッフにもバンドマンが多いんです。去年からは、backlogというツールを使って、全ての案件を営業から納品まで進捗管理するようになったので、あんまり勝手なことはできなくなりました。

田中:「魂枠」って名前もめっちゃいいですね。僕は学生起業に弱いです。単純に手伝ってあげたいと思うし、やっぱり最初にお金の面でいい加減なことをしていると後々苦労するんですよ。経験のある大人がちょっと見ておいてあげるだけで、大きな差が出るので。

柴田:京都の学生も支援してるんですか?

田中:京都では、学生を対象にした起業プランコンテストのメンターをしていて、けっこう相談がありますね。長野県立大学でも起業支援に関わっていて、そこで生まれた会社の顧問税理士もしています。若い人たちを応援するのは楽しいし、こちらも学ぶことが大きいから、学生の支援は続けていきたいです

会社の価値をどうやって言語化するのか。

田中:柴田さんが考えるおいかぜさんの仕事の価値って何ですか?……と質問しながら、田中会計の価値を言語化していないことに気づいて焦っています。

柴田:最近ちょうど考えてるんですよ、それ。ステートメント、ミッション、おいかぜができること、心構え、の4つの項目でテキストを作っています。価値っていうと、多分おいかぜができることが近いのかな。まだ完成してないんですけど、課題を解決するための「つくる」「そだてる」を続けていくことかなぁと思っています。

田中:なるほど。他のも聞きたいです。

柴田:もともと、「だれかのおいかぜになる」っていうステートメントだけは早くから決まっていて。これをさらに具体的に伝えるために、他の3項目を考え始めました。web制作もネットワークインフラの構築も、その先にあるのは「はたらく」をつくることだと思っているので、それがミッションになってくるはず。心構えは、風ってどういう存在やろうってところからスタートして、形も色もなくて、フレキシブルに変化し続けられるよな……とか。

田中:すごい。こういうのを考える時は、誰かに相談したりするんですか?

柴田:1人で考えてますね。時々noteに文章を書きながら、自分で壁打ちする感じで。考えたことをすぐに忘れてしまうので、書いたことを読み返しながら思考を前に進めていってます。これを社内に伝えるのは自分でできるけど、外向きに伝えるところを広報のスタッフにやってほしいんです。

田中:うちもちゃんと整理して言葉にせなあかんな……。「彩りある未来」をつくりたい、ということは何年か前からずっと言っていて。挑戦したい人が挑戦できて、多様な人が個性を活かして働ける社会を実現したいと思っています。それとは別に大事にしている言葉があって、それは「強く、優しく、おもしろく」。今思えば、多分スタッフにも話したことないんですけど。自分の中では常に意識しています。

柴田:「強く、優しく、おもしろく」かぁ。僕も強い会社にしたいとはずっと思っています。

田中:ほんまですか。やっぱり、会社は優しくておもしろいだけじゃ誰も相手にしてくれないんですよね。うちが支援することでお客さんの事業が成長して、会社として強くなることが一番重要で。その上で自分たちの姿勢として、厳しいことばかり言うんじゃなく、お客さんのことを思いやる優しさは大切にしたい。おもしろさっていうのは、自分たちが楽しく働けることでもあり、もう1つ、社会の中での立ち位置としてユニークな存在でありたいと思っています。お客さんにも、他社がやってないことや独自の価値を提供することに挑戦してもらえるよう、支援したい。

変化し続けられることも、会社としての強さになる。

柴田:うちは、ネットワークインフラの事業が財務基盤を支えてくれていて。もちろん会社の強さは財務面だけで決まるものじゃないですけど、そこはかなり重要だと思っています。大学や施設からの業務委託で毎月固定の収入があるので、web制作事業の売上に波があっても余裕を持てるんです。対外的にはweb制作事業の方が目立っているけど、ネットワークインフラ事業の方も着実に伸ばしていきたいですね。

田中:税理士の仕事は基本がストック型なので、安定はしています。一度顧問になったら途中で変えられることは滅多にないですし。ただ、そこに甘んじて、定型のルーティン作業で売上を増やしていってもおもしろくないんですよね。だから、余白を残しておいて、プロジェクトとして完結するクラウド導入支援や業務改善のコンサルを増やしていきたいと思っています。

柴田:固定収入があると、プロジェクト型の仕事で思い切ったことができますよね。web制作事業にもその構造を作るべきだと最近考え始めて、今、新しいチームを作っています。webサイトの運用保守をするチームなんですけど。お家の事情でフルタイムでは働けない人や制作現場の最前線で仕事をするのにちょっと疲れたなっていう人が、自分のペースで働ける場が必要だよね、という話から立ち上げが決まって。話の中で「優しい場所を作らないとだめですね」って言葉が出てました。

田中:気が合いますね。

柴田:規模が大きくなるにつれて会社の構造を変えていく必要があるんだと、この数年で実感しています。変化し続けられることもまた、会社としての強さかなぁと。僕は会社を大きくしたいとは思ってないんですけど、強くしようとすると必然的に大きくなってきた、という感じです。

田中:そこはちょっと考え方が違って、うちは5人を超えることはないと思います。僕が仕事を辞める時には解散するつもりなので、スタッフにはどこでも生きていけるようになりやってずっと言ってますね。アシスタントで終わるんじゃなく、中小企業診断士とかの資格をちゃんと取りやと。バックオフィスでそれなりの経験を積んでいても、やっぱり資格がないと、40代、50代で仕事を探すのは難しいので。

柴田:うちもエンジニアの教育は、独立してフリーでもやっていけるように、幅広く技術を習得してもらってましたね。人数が増えたことで全員がそこを目指すのは難しくなってきて、最近は分業もするようになっていますけど。web制作は業務領域がどんどん広くなっていて、全部カバーするのはなかなかたいへんです。制作会社も数としては昔より減ってきている感覚があります。

田中:そんな中でおいかぜさんが成長しているのは、常に変化し続けているからですよね。「こどものためのでざいんぷろじぇくと ワワワ」のような自社プロジェクトや新規事業「はたらくデザイン事業部」の立ち上げをしながら、裏側では評価制度の更新もされていると聞きました。いつも新しいことをやっているイメージがあります。

柴田:評価制度はちょっと今、締め切りをだいぶ過ぎてるので、あれなんですけど……。こんなこと言ったら怒られるかもしれないですけど、webサイトを作ること自体にはとっくの昔に飽きてるんです。制作によってお客さんの課題を解決することには、今でも興味ありますけど。

田中:確かに、僕も決算書を作る作業には飽きてます。でも税理士の仕事のおもしろさは、年々増してきているように感じる。税理士って、平均年齢が60歳を超えていて。僕らみたいな税理士を求めてくれる人はこれからも増えていくと思うし、大手法人とは違うかたちでやろうと考える若手の税理士も多いんじゃないかな。この5年、10年で、どちらの業界もまた変わっていきそうですね。

税理士としての見解だけで終わらないコミュニケーションがありがたい。

柴田:うちの税理士さんとは僕が20代半ばで有限会社を創業した時からのお付き合いで、かれこれ19年お世話になっています。友人の紹介だったんですけど、当時、先生は30代かな。山あり谷ありな経営の全てを知っている存在ですよね。共同経営を解消した時も、資金繰りがやばくてものを売りまくった時期も。ずっと伴走してもらっていて、とても心強いです。

田中:いい関係性を築いてはるんですね。

柴田:色んなことを相談した時に、税理士としての見解と、そうじゃない個人としての反応をうまく切り分けて返してくれるんですよ。そのバランスがありがたいです。たとえば、自社ビルの購入を検討している時に、「そのためには利益がこれだけないと厳しいで」ってちゃんと教えてくれた上で、「ええ建物やなぁ、これはほしいなぁ」って。税理士の視点だけで話をする場合は、言うべきことってもう法律で全部決まってるじゃないですか。そこだけじゃないコミュニケーションをしてくれる税理士さんが、もっと増えたらいいのになって思います。

田中:いいこと言うてくれはるわ。僕も本当にそう思います。

柴田税理士さんと二人三脚で走れる関係性があることは、経営者にとってはすごい強みになります。これは声を大にして言いたい。決算書の数字と、実際に現場で回しているお金ってちょっと乖離してるじゃないですか。税務だけにフォーカスするんじゃなく、その両方を見てくれるとありがたいですね。

田中:きれいごと言ってても仕方ないですからね。キャッシュがどれだけあるか、来月支払いできるのか、再来月は大丈夫なのかをまず考えないと。よくある「この支出って経費になりますか?」という質問も、教科書通りの答えと事実が必ずしも重なるわけではないですし。会社が儲かってる時にいい車買って税理士に怒られたとか、役員報酬が高すぎるって言われたとか、そういう話もよく聞くんですけど、僕はそれが経営者のモチベーションにつながって事業がより良くなるんやったら、全然いいと思う。相場と合わせる必要はなくて、本人がどう考えて決めたのかを判断軸にしています。大げさかもしれないけど、僕らの仕事は経営者の人生まで背負ってる部分もあるから、関係性は本当に大事。

柴田:僕たちも税理士さんの立場に配慮して、伝え方や聞き方を考えるべきだと思うようになりましたね。こっちも杓子定規ではあかんのやなと。お互いの立場と役割を理解して、二人三脚で数字を作っていくってことですね。

田中:めっちゃきれいにまとめてくれた。完璧です。

柴田:全部、田中さんが喋ったってことで。

田中:それは嫌やな。久しぶりに色々お話しできて楽しかったです。ありがとうございました!

協力:株式会社おいかぜ
文・写真:柴田 明

2022.03.29